鳥取地裁裁判傍聴記(1)

 鳥取地裁上田美由紀被告事件裁判傍聴記() 

 

 裁判員裁判制度が、発足して35ヶ月が経過するに至りました。この間に全国では、本年7月末現在5604件の裁判員裁判が実施され、死刑判決も14件言渡されています。島根・鳥取両県は、広島高裁松江支部管内にあり、松江地裁本庁及び鳥取地裁本庁では各9件計18件の判決が言渡されています。

私は、これまで島根県の裁判員裁判第1号事件(松江地裁平成211029日判決)を傍聴する機会が有りました(島大法学534)。また、鳥取地裁で全国初の死刑求刑がなされるか関心を呼んだ強盗殺人事件では、コメントを求められ関心を持って裁判の経緯を見守りました(鳥取地裁平成2239日判決)

 

 私の裁判員裁判を傍聴する目的は、山陰地域での重要な裁判員裁判を単なるローカルなケースとせず問題点を発信してゆくことが、より良い裁判員裁判を構築する一つの契機となると共に法科大学院の責務と考えています。
 現在、鳥取地裁では、全国的にも注目されている上田美由紀被告に対する強盗殺人2件、住居侵入窃盗1件及び詐欺6件の裁判員裁判が進行中です。先に、さいたま地裁では、木嶋佳苗被告に対する殺人3件、詐欺同未遂及び窃盗の7件の被疑事実について100日間の裁判員裁判が開廷され死刑判決が言渡されています(さいたま地裁平成24413日判決)
 私は、上田美由紀被告に対する裁判員裁判開始に当たりBSS山陰放送より「テレポート山陰」での10回のコメントを求められ重要な開廷日に傍聴しています。
 

 

 










写真:林弘正先生
 BSS山陰放送「テレポート山陰」より

 鳥取地裁での今回の上田美由紀被告に対する裁判員裁判(以下、「本件裁判」と略記します)は、犯人性が争点となり、裁判開始に先立ち公判前整理手続に28ヶ月余42回を要しています。本件裁判は、木嶋佳苗被告裁判に続く全国2番目の長期裁判員裁判で75日間25回の公判期日が予定されています。
 裁判員裁判は、現実に実施される中で幾つかの問題が指摘され、裁判員法附則第9条は、「政府は、この法律の施行後3年を経過した場合において、この法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて、裁判員の参加する刑事裁判の制度が我が国の司法制度の基盤としての役割を十全に果たすことができるよう、所要の措置を講ずるものとする。」と規定しています。裁判員法附則第9条に基づき、最高裁に「裁判員制度の運用等に関する有識者懇談会」(座長・椎橋隆幸中央大学教授)、法務省に「裁判員制度に関する検討会」(座長・井上正仁東京大学教授)が設置され運用状況・問題点等の分析・検討がなされています。特に、「裁判員制度に関する検討会」は、平成24314日開催第8回以降、論点整理のための検討を開始し、審理・公判前整理手続等、評議等、裁判員等選任手続について、対象事件等について、裁判員裁判に関わるその他の手続(上訴審)、裁判員の義務・負担に関わる措置等について等のテーマを取上げています。

 第1回目の傍聴記では、法的論点についての指摘の前提として重要な2点について検討をします。
 第1は、長期間に亘る裁判員の身体的・精神的負担です。裁判員は、月・火・木・金曜日の週4回開廷される法廷で検察官及び弁護人の主張や証人の法廷での供述に集中力を持って傾聴するという過重な負担が問題となります。
 第2は、本件裁判のような情況証拠のみの否認事件に内在する問題です。最高裁判所は、最高裁判所第一小法廷平成191016日決定、最高裁判所第三小法廷平成22427日判決及び最高裁第一小法廷平成2497日判決等で裁判員裁判を視野に入れた判断をしています。特に、最高裁判所第三小法廷平成22427日判決(刑集643233)は、「情況証拠によって事実認定をすべき場合であっても、直接証拠によって事実認定をする場合と比べて立証の程度に差があるわけではないが(最高裁平成19()398号同年1016日第一小法廷決定・刑集617677頁参照)、直接証拠がないのであるから、情況証拠によって認められる間接事実中に、被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない(あるいは、少なくとも説明が極めて困難である)事実関係が含まれていることを要するものというべきである。」と判示し本件裁判の事実認定との連関で重要な判示をしています。

 

(2012.10.18)