鳥取連続不審死事件の裁判員裁判

鳥取連続不審死事件の裁判員裁判について

桑野 雄一郎

 鳥取地方裁判所で,現在連続不審死事件の裁判員裁判が行われています。この事件は,既にさいたま地方裁判所で死刑判決が言い渡された首都圏連続不審死事件と内容が似ており,また相前後して捜査機関による強制捜査が行われた事件として,捜査段階からマスコミを賑わせていました。
9月25日に第1回公判期日が開かれたこの裁判は,12月4日の判決言い渡しまで,約2か月半にわたり合計25回の公判期日が予定されています(但しその後の公判の経緯を踏まえて取り消された期日もありますので,実際の公判回数はこれよりも少なくなる見込みです)。裁判員裁判の中でも極めて長期間・多数回にわたる裁判といえます。
 今回起訴されたのは,詐欺事件と強盗殺人事件で,詐欺事件については概ね争いがないのですが,強盗殺人事件については被告人が無罪主張をしています。その理由は,犯人は自分ではなく,詐欺事件の共犯者でもある内縁関係にあった男性であるというもので,現在行われている裁判では,被告人が犯人であるという検察側と,その男性が犯人であるという弁護側の主張が真っ向から対立している状況です。

刑事訴訟法の視点から今回の裁判についてのポイントとして挙げられるのは以下の点です。

1 情況証拠に基づく被告人と犯人の同一性の判断
 犯人が被告人か,その男性かを直接立証する証拠(直接証拠)はなく,被告人又はその男性が犯人であるということを推認させる事実(間接事実)を巡る攻防となっています。当該間接事実を立証する証拠(情況証拠)として何を提出し,それによりどの程度の立証ができるのかが勝敗(という表現はやや不謹慎かもしれませんが)を分けることになります。
 もともと刑事裁判における事実認定において,情況証拠による事実認定は職業裁判官の場合でも非常に難しいのですが,その中でも犯人性の立証は特に難しいとされており,冤罪事件の多くもこの点に関する誤った事実認定が原因でした。このような,職業裁判官でも極めて難しい問題を裁判員が市民感覚に基づいてどのように判断するのかが注目されるところです。

2 裁判員の負担へのケア
 今回の裁判は極めて長期間,多数回にわたります。また,昨日まで地方都市で静かに市民生活を送っていた方が,全国的にも注目されている事件の渦中に置かれることになります。そして,裁判の過程では強盗殺人事件での被害者の方のご遺体の写真なども証拠として確認してもらうことが必要になります。さらに,本件は有罪との判断になった場合には極刑の言い渡さなければならないことも十分に予想される事件です。
 このように,今回の裁判は裁判員の方の心身に最も過酷な負担を強いるものとなります。裁判所が裁判員に対してどのようなケアをすべきか,またできるのかが問われるところです。

3 真犯人を具体的に主張する弁護側の主張の根拠
今回の裁判では弁護側がこの者が真犯人であると具体名を挙げて主張を展開しています。もちろん,刑事弁護人としてこのような主張をすること自体は当然あり得ることです。ただ,このような主張は,捜査機関も立件しなかった者を殺人者呼ばわりすることになるわけですから,名誉棄損にあたる可能性もあります。ですから,証拠に基づいて慎重に検討することが求められるところです。
 本件では弁護側がどのような証拠に基づいてこのような思い切った主張を展開しているのかも注目されるところです。

  今回の裁判は,全国的にも注目されている事件であると共に,山陰地方の法曹と市民がどのようにこの事件に取り組み,結論に至るのか,正に刑事訴訟法改正の真価が問われる事件ということができるでしょう。

(2012.10.18)